(前回は,こちらから)
さて,私も,本の売り込みの手伝いをすることになったわけですが,よく見ると,私の担当する販売ブースの隣のブースに,見覚えのある顔が。
よく見ると,昨年,執筆に参加した別の本の出版社の社長でした。
隣で,違う本の宣伝をするのも気が引けましたが,まあ,何か興味を引く本があったらこちらの出版社の本を買っておこうと心に決め,販売活動の開始です。
とはいえ,弁護士のみなさんは,投票に来たのであり,本を買いにやってきたわけではありませんから,多くの弁護士は,自分の投票が終わると,販売ブースは全く無視するか,あるいはチラッと一瞥しただけで,そのまま通り過ぎてゆきます。
そこを,声を掛けて引き留めなければならないわけですが,これがなかなか難しい。
なかには,
「本日発売でーす! 今なら〇割引でーす!」
などと始終連呼しながら,本の題名が大きく書かれた看板を持って歩き回っている人もおりましたが,私は基本的に慎み深い性格なので,本を両手に持って掲げてうろうろ歩き回るまでが精一杯。
それでも,続けていると,見知った弁護士が見つかるものです。15分ほど立った頃,将棋会でお世話になっているK弁護士を見かけたので,
「この本,私も執筆を担当したんです。よろしかったら買って下さい。」
とお願いしたところ,
「ああ,そうなんですか。それでは1冊買いましょう。」
と,快く(?)買ってもらいました。
さらにしばらくすると,司法修習で同じクラスだったN弁護士が現れたので,
「この本,私も執筆を担当したんです。買ってくれませんか。」
と,同じようにお願いしたところ,
「私も同じなの。それじゃ,バーター(交換取引)と言うことで。」
ということで,私がN弁護士の勧める本を買うのと引き替えに,私の方の本を買ってもらうことになりました。
この後も,見知った顔を見つけては声をかけ,買ってもらうことに成功したり失敗したりしているうちに,自分の販売担当時間が終わりましたので,販売ブースからの撤収がてら,N弁護士との「取引」を果たす為もあり,「離婚をめぐる相談100問100答」「ベーシック刑事弁護実務」「消費者相談マニュアル」といった本を買い求めて,事務所に戻っていったのでした。
最終的には,私が販売をお手伝いした出版社は,この日1日で,80冊ほど売れたとのことです。一般に,法律書はそんなに売れないものであることを考えると,充分な成果と言えるでしょう。
良く考えてみると,販売を手伝った私は,販売に少しは貢献したでしょうが,本が売れても自分に手数料が入ってくるわけではなく,逆に,「バーター取引」などで,自腹で他の出版社の本を買っているので,経済的にはマイナスです(販売を手伝った他の弁護士も,似たようなものでしょう)。
本の売り子同士がお互いの本を買い合って,結果的に出版社の売上に貢献する・・・
弁護士会の選挙の日は,出版社にとっては儲ける日,我々売り子にとってはため息が出る日なのです(まあ,こちらも業務に必要だと判断しているから本を買っているのですが)。