手形決済ができない場合


相談者

3日後に手形が落ちるんですが、決済資金がないんです。どうしたらいいですか。

 

弁護士

 いきなり、難易度の高いご相談ですね(苦笑)。しかも、猶予期間がわずか3日・・・(沈黙)。

うーん、まずは、他の支払を全部止めたらどうです? 決済できそうですか?

 

相談者

そうですね・・・(しばらく計算に没頭)・・・何とかなりそうです。

でも、その次の手形までは無理そうです。

 

弁護士

では、手形のジャンプ(※)は? 相手も、手形が不渡りになったら全く回収できないから、嫌々でも受け入れざるを得ないと思いますが?

  • 「手形のジャンプ」とは、期日に落とせない手形の支払期日を延長すること。手形を新しく書き換えるか、支払期日を訂正する方法で行われる。

 

相談者

それも考えましたが、既に手形を割引(※)に出した相手もいるみたいで。それに、振り出し先の数が多いので、間に合わないかも。

  • 「手形割引」とは、満期前の手形を金融機関に依頼して、買い取ってもらうこと。満期には、金融機関が手形を提示して支払を受けることになる。

 

弁護士

むむう、それは容易ではないな。振り出し先の数が少ないなら、特定調停と同時に調停前の措置も申し立てる(※)という手があったのですが・・・(しばらく沈黙)・・・民事再生しかないかな。

  • 「特定調停前の措置」とは、調停の相手方に現状維持を命ずる処分を言う。本件で言えば、手形を提示させないことがこれに当たる。
    但し、「調停前の措置」に強制力はない。

 

相談者

ええっ、そんな。民事再生したら、取引先が逃げますよ。

なんとか、私的再建でどうにかなりませんか。

 

弁護士

うーん、手形決済が絡んでいると、私的再建は難しいんですよ。手形の期日は待ったなしでやってきますからね。

それに、民事再生をやったからといって取引先がみんな逃げるとは限らない。最近は債権者も民事再生に慣れてきていますからね。

 

相談者

でも・・・。

 

弁護士

まあ、今の状況は、将棋で言えば「王手飛車取り」を食らったようなものです。飛車を取られるのは惜しいけれど、まずは王様を守らなきゃ。

とはいえ、悩まれるのは充分分かりますので、強制はしません。時間はあまりないけれど、今日一日ゆっくり考えて下さい。

それと、いつでも民事再生を申し立てられるよう、最低でも、過去3期分の決算報告書・今後半年程度の予想資金繰り表・債権者一覧表は明日までに用意して下さいね。

 

相談者

明日までですか?!

 

弁護士

そう、明日まで。大変だけど、頑張ってね。こちらも頑張るから。

 

  • 全国銀行協会は、各地の地方銀行協会に対し、東日本大震災により被災した企業が期日までに手形や小切手の決済をできず不渡りを出しても「不渡り報告」に掲載しないよう、通知している(平成23年10月6日現在)。