「憲法違反」とはどういう意味か~違憲判決の効力~

 最近,最高裁判所が,憲法判断に関し,2つの判断を下しました。

 

 1つは,「非嫡出子の相続分を嫡出子の半分と定めた民法900条4号が法の下の平等を定める憲法14条1項に違反する」という判決であり(これを「A判決」と言います。),

 もう1つは,議員定数が不均衡な状態のまま行われた衆議院議員選挙は「違憲状態」であったが,選挙そのものは有効とした判決です(これを「B判決」と言います。)。

 

 ところで,そもそも,「違憲判決」って,どのような効力があるのでしょうか。

 

 この点,論理的には,裁判所の違憲判決によって,問題となった法令が自動的に無効になるという考えもあり得ます。

 これは,憲法学上は,「一般的効力説」と言われます。

 

 ですが,現在の裁判実務は,違憲判決の効力について,そのようには考えていませんし,学説上も,一般的効力説は少数説に留まっています。

 それでは,裁判実務,学説上の通説は,違憲判決の効力をどのように考えているかというと,「個別的効力説」を採用していると言われています。

 これは,「国会が当該法令を改廃するまでの間,法令そのものは有効であるが,当該事案については,裁判所は当該法令を適用を控える(A判決の場合),または違憲状態であると宣言しておく(B判決の場合)。」という考えです。

 

 何だかハッキリしない,もやもやした考えですが,理由があります。

 それは,「立法は国会の,行政は内閣の,司法は裁判所の判断をそれぞれ尊重する」という,「三権分立」の考え方です。

 

 例えば,嫡出子・非嫡出子問わず,現行民法よりも相続分を増やしたり,逆に減らしたり,さらに進んでゼロにしたりしても,嫡出子・非嫡出子間では平等で,いずれも合憲とは言えます。

 同じように,議員定数の「違憲状態」を解消するための方法も,選挙区割り,定数を含め,色々考えられるところです。

 合憲とするための制度設計には複数の方法があり得るわけで,その点については,立法を担当する国会に任せましょうというのが,個別的効力説の考えなのです。

 

 個別的効力説の理論的根拠となっている「三権分立」の考えは,1700年代半ばに,フランスの哲学者であるモンテスキューによって唱えられたものですが,モンテスキューには,当時強固な権力を誇っていたフランス王政,そして王政側に立っていた裁判所の権力を抑制する意図があったと言われます。

 つまり,「三権分立」とは,もともと,王室(行政)や裁判所(司法府)が政治に介入するのを阻止し,「立法府」の強化を願って考えられた概念でした。

(厳密には,アメリカ型の三権分立もあるのですが,話が複雑になるので省略します)

 

 その意味で,最高裁判所の憲法判断に対する立場は,政治過程に深入りするのを避けるという意味で,モンテスキューの考え方に忠実だと言えます。

 

 このように,憲法の解釈は,歴史が絡んでくるという意味で他の法律とは異なる点があります。

 それが憲法学習の難しいところであり,また面白いところであると言えるでしょう。