司法試験受験記(1)-司法試験を受けてみるか-

 今,もう一度,司法試験を受験するかと問われたら,ノーと答えるでしょう。

ですが,大学に入学したばかりの私は,何も分かっていませんでした。

 

 現役生として大学を受験したとき,偏差値は40そこそこでした。

浪人中,毎日朝から晩まで勉強して,1年後には,65を超える程度まで偏差値が上がっていました。

 そのことが,私の目を曇らせたのでしょう。「やれば,まだまだいけるんじゃないか?」と思い込んだのです。

 

 大学に入学した4月,学内では,サークルへの加入を勧める学生の他,専門学校のパンフレットを配っている人がたくさんいました。

 パンフレットの中には,「司法試験セミナー」というものも交じっていました。

 

そのとき,ふと,思いました。

 

「一番難しい試験を受けてみよう。一番難しい試験は司法試験だろうから,司法試験を受けよう。」

 

 歴史に「もしも」は禁句と言われますが,もしも,このとき,司法試験を受験しようと考えなかったら,人生は全く違ったものになっていたでしょう。

 このとき,私は,人生の大きな曲がり角に立っていたのです。そして,「難しいから受けてみよう」という単純な理由で,あっさりと,重大な選択をしてしまったのです。自分が,人生の重大な岐路に立っていることすら気づかずに。

 

 さて,司法試験を受験することが決まったとして,次に決めることは,「今すぐ本格的な受験勉強を始めるか,それとも,教養課程の2年間を終えてからにするか」ということでしたが,いわゆる「学生生活」を楽しもうと思っていた自分にとって,答えは自ずから明らかでした。

 

「まあ,大学受験が終わったばかりだし,2年間は『受験勉強』から離れよう。大学で,司法試験受験を考えている学生のための『法職過程講座』がある。費用も割安だし(確か,専門学校の授業料の1割程度だったと思います),まずは,そちらの入門コースを受けることから始めよう。」

 

 というわけで,週に2回,夕方6時からの入門コースを受けることから,私の受験記は始まります。

 しかし,もともと,受験の動機が弱かったからか,生来的に自分が怠け者なのか,程なくして授業中は居眠りのための時間となり,やがては授業に出なくなりました。

 そのまま,「受験するのだ」という気持ちだけは持ちつつ,具体的な勉強は何もやらないまま,気が付いたら,3年生の秋を迎えていました。

 

 ゆっくりでも着実に進むことが大事であることの例えとして,「ウサギとカメ」の話が引き合いに出されます。信号が赤になりかかったら,走って横断するよりも立ち止まって信号が青に変わるのを待つタイプの私は,カメ型人間だろうと思っていますが,この頃の自分は,カメはカメでも,どこにゴールがあるのか分からず,途中で居眠りをしたり道草をしたりするカメでした。

 

(続く)

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