相続が始まると,相続人同士で,遺産をどのように分けるか,話し合いが始まる。話し合いがまとまらなかったら,遺産分割の調停や審判を申し立てる。
それでは,仏壇や遺骨の場合も同じように考えていいのだろうか。そもそも,仏壇や遺骨は,相続されるようなものなのだろうか。相続対象に含まれるとすると,民法の規定通り,原則として分割相続(民法900条)されるのだろうか。
実は,仏壇については,民法に答えが書いてある。
民法897条は,以下のように規定している。
- 系譜,祭具及び墳墓の所有権は,前条の規定(相続の一般的効力)にかかわらず,慣習に従って祖先の祭祀を主催すべき者が承継する。ただし,被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主催すべき者があるときは,その者が承継する。
- 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは,同項の権利を承継すべき者は,家庭裁判所が定める。
つまり,系譜(家系図など),祭具(位牌・仏壇・仏具など),墳墓(墓石・墓碑など)祭祀財産は第1に,被相続人の指定,第2に慣習,第3に家庭裁判所によって定められた祭祀主宰者が単独で引継ぎ,相続の対象にはならないということである。
そして,「遺骨は祭祀財産そのものではないが,祭祀財産に準じて祭祀主宰者に帰属する」というのが最高裁判決(平成元年7月18日判決)の立場なので,結局,遺骨も,相続の対象にはならないということになる。
しかし,良く考えてみると,被相続人の指定がなかったら,誰が「祭祀主宰者」として仏壇や遺骨を引き取るのか,法律は何も言っていないに等しい。
高等裁判所の決定(大阪高裁昭和59年10月15日決定)の中には,家庭裁判所が祭祀主宰者を指定する基準として,
「被相続人との身分関係,過去の生活関係・生活感情の緊密度・承継者の 祭祀主催の意思や能力,利害関係人の意見」
などを考慮要素として挙げているものもあるが,これだって,つまりは,
「そのときそのときに応じて臨機応変に判断してください」
ということであり,分割相続を基本とする民法900条のルールに比べると,基準としては曖昧なままである。
それじゃあ,自分のケースでは誰が「祭祀主宰者」になるんだと相談者から聞かれると,「うーん,分かりません」と答えるしかないし,
「遺骨を引き取りたいんですけど,相手が引き渡しを拒否しているんです。」という相談に対しては,
「遺骨の所有権は祭祀主宰者に帰属しますので,まずは誰が祭祀主宰者になるかを定めて,祭祀主宰者の権利として引き渡しを求めることになります・・・自分が祭祀主宰者になれるかですって?・・・何とも言えませんねえ。」
という,ハッキリしない回答になってしまう。
弁護士は,法律の専門家だということになっているが,その法律が,仏壇や遺骨についてはほとんど沈黙しているので,このような歯切れの悪い対応になってしまうのだ。
ただ,法律が明確なルールを設けなかったのには,それなりの理由があると思う。
遺骨や仏壇は,本来,故人に関係するものだから,どのようにするかの最終的な決定権は故人にあると言えよう。民法897条も,そのことを前提にしていると考えられる。
相続人にできることは,故人の遺志に添えるような形で故人を弔うことである。
ただ,当の本人は亡くなっているので,「故人の遺志」は推論するしかない。
だから,「被相続人との身分関係,過去の生活関係・・・」などの諸要素から「故人の遺志」を推論することとし,敢えて法律で画一的なルールを定めないようにしたのだ・・・と言えると思う。
遺骨や仏壇に関する法律問題の難しさは,本当の主人公が,既にこの世にいないことなのだ。