本「金融円滑化法出口戦略」を読む(6)

(前回は、こちら

 

 

 「~~を読む」と言っておきながら、本の中身についてほとんど触れない記事が続いていますが、まあ、「現場の実務家から見た感想」ということで、ご勘弁下さい。

 とはいえ、いつまでも本の中身を紹介しない記事が続いては、著者達も良い気持ちがしないでしょうから(多分、著者達は、このブログは読んでいないとは思いますが)、「『金融円滑化法出口戦略』を読む」シリーズは、今回でひとまずおしまいとして、金融円滑化法ネタは、またその時その時触れると致しましょう。

 

 さて、今回は、「中小企業再生支援協議会を利用するのなら、今が狙い目かも?」という話でした。

 なぜ、今が狙い目なのでしょう?

 その前に、協議会の、これまでの実績を振り返ってみましょう。

 

 協議会が設置されたのは、2003年の夏です。その後の、2011年3月末までの累計相談実績は約23,800件で、年間平均で約3,000件ということになります。

 うち、再生計画策定支援の完了実績は、2011年度末までで3,200件で、年間平均で約370件です。協議会の職員は総勢252名ですから(2011年11月末現在)、一人当たりで、年間で1~2件の債務者について再生計画策定支援を行っている計算になります。

 

 さて、ここで少し話題が変わります。

 

 2012年4月、内閣府・金融庁・中小企業庁によって発表された「中小企業金融円滑化法の最終延長を踏まえた中小企業の経営支援のための政策パッケージ(以下「経営支援政策パッケージ」と言います。)」において、企業再生支援機構や中小企業再生支援協議会を通じた事業再生支援機能が強化されました。

 具体的には、協議会においては、「2012年度に全体として3,000件程度の再生計画策定支援を目指す」とされました。

 

 ここで、何か気づきませんか?

 これまでの、再生計画策定支援件数は、「2003年夏~2011年度末までで、3,200件」でした。

 これに対し、経営支援政策パッケージで求められているのは、「12年度に3,000件程度」です。ざっと、これまでの平均の8倍程度のペースで処理しなさいと言っているわけです。

 

 普通に考えたら、こんなこと、できるわけありません。少なくとも、今までのやり方である限りは、無理に決まっています。

 というわけで、「経営支援政策パッケージ」では、それを何とかするため、やり方を、「今までのやり方」から大幅に転換するよう求めました。具体的には、「金融機関等の主体的な関与やデューデリジェンスの省略等により、再生計画の策定支援をできる限り迅速かつ簡易に行う方法を確立する」とし、標準処理期間を「2ヶ月」と設定しました。これまでは、「6ヶ月」が標準処理期間とされていたのですから、かなりのスピードアップです。

 

 ここでのポイントは、①「デューデリジェンスの省略等」、②「迅速かつ簡易に行う方法」というところです。

 ①より、少なくとも、小規模な債務者の場合は、デューデリジェンスが省略されるか、あるいは簡単なデューデリジェンスで済まされるケースが増えるでしょう。

 ②より、再生計画に対する金融機関及び協議会のチェックは、事実上、骨抜き・・・いや、緩やかになるでしょう。少なくとも、これまでと同じレベルでチェックするわけにはいかないはずです。

 

 書店では、金融円滑化法終了後をにらんだ書籍が増えてきました。金融円滑化法終了後の対応をテーマとする講演会や研修も増えてきました。日弁連も「来年4月以降」をにらんで、研修を予定しています。

 

 でも、素朴に考えるなら、「金融円滑化法が終了した後、どうするか」と考えるよりも、「金融円滑化法が残っている今現在、どれだけ将来のために足腰を鍛えておくか(債務整理を始めておくか)」の方が重要ではないかと。

 そして、バーゲンセールではありませんが、債務整理の方法として中小企業再生支援協議会を利用するのなら、今がチャンスではないかと愚考する次第です。