(前回は、こちらから)
前回は、金融円滑化法の期限到来後も、直ちには倒産件数が激増することはないだろうと述べました。
その理由として、金融庁が、金融円滑化法終了後でも「営業改善の余地がある債務者」に対する融資は不良債権と見なさないという見解を示し、各金融機関の運用もその見解に沿って進められるだろうからと述べました。
それでは、どうして、この時期に、金融庁は、このような見解を出したのでしょうか。
その問いに対する答えのヒントが、本書に少し触れられています。
「倒産に至らない場合であっても・・・債権放棄や債権売却の場合は引当が実現損失に転換されるし、・・・体力のない金融機関ほど十分な引当を積んでいない傾向が大きいと推察されることから、場合によっては期限到来によって金融機関の再編が起こる可能性も考えられよう」(本書27頁)
本では難しく書いてありますが、簡単に言えば、「貸した金の大半が返ってこなくなり、金融機関自身も債務超過になる。そうなれば、金融機関自身も倒産に追い込まれるからだ。」と考えればいいでしょう。
と言いますのも、現在のところ、金融円滑化法により返済条件が変更された債権(約79兆円。本書17頁)は、「不良債権ではない」とされていますが、金融円滑化法の廃止後、何もお手当がなければ、これらの債権の大半が不良債権になると予想されます。
金融機関の貸付金の総額は約570兆円ですから(本書18頁。平成23年9月期)、仮に、金融円滑化法の終了後、返済条件が変更された債権約79兆円の半分が「回収できない債権」として確定してしまったら、それだけ金融機関の資産が減少するわけでであり、金融機関の中には、債務超過に転落してしまうところも出てくるでしょう。
(参考までに、岩手県、宮城県、福島県で、東日本大震災以降に約定返済停止等を行っている債務者数及び債権額が金融庁から公表されています。これを見ますと、メガバンクよりも地域銀行が、地域銀行よりも信用金庫等の方が大きな影響を受けることが見て取れます。)
というわけで、金融庁としては、金融機関自身の破綻を防ぐためにも、「金融円滑化法終了後も経営改善余地が見られる場合は『不良債権』ではない」という見解を表明せざるを得なかったのだろうと想像されます。
「それならば、金融円滑化法を更に延長すればいい」という声が聞こえてきそうです。
政府は、今のところ、金融円滑化法の再々延長はないとしておりますが、衆議院議員総選挙後の新政府は、もしかしたら、違う対応を打ち出すかも知れません。