準備書面などに相手方の悪口を書くべきか

聞くところによると、弁護士が裁判で提出する準備書面の中には、時々、相手方のことを「盗っ人猛々しい」「極悪非道」など、相手方の性格や行動を中傷・断罪するような書面があるらしい。

また、そこまで激烈な表現でなくても、人格攻撃に及んでいると思われるような準備書面は、時に見かけるところである。

 

そして、ときには、依頼者から、「言われっぱなしでいいんですか。相手は大嘘つきです。言い返して下さい。」などと、相手の人品性格を攻撃するよう頼まれることがある。

 

このようなとき、弁護士としては、依頼者の頼みを受けるべきか否か?

 

この点については、弁護士によって考え方が分かれようが、私の場合は、基本的に全てお断りしている。

 

理由は、主に3点ある。

 

第1に、相手方から懲戒請求を申したてられるリスクがある。実際、時々、「弁護士としての品位を失うべき非行」に該当するとの理由で、弁護士会から懲戒されるケースが発生している。

 

第2に、訴訟の勝敗につながらない。

当事者間の力関係が物を言う政治交渉やビジネス上の交渉とは異なり、法的紛争の場合、最終的な勝敗を決めるのは「法」である。よって、相手方に対する人格攻撃は、法的には無意味であるばかりか、相手が反発して態度を硬化させれば和解交渉もできなくなるという意味で、リスキーでもある。

 

第3に、代理人弁護士として依頼者に適切な助力ができなくなる。

代理人弁護士が紛争解決に役立つのは、法律的な専門知識を持っているからだけではなく、第三者として、長期的・根本的・多面的に依頼者の利益を考えることができるからでもある。

そのためには、代理人弁護士は、相手方の事実主張・法的主張については徹底的に対応するにしても、相手方の性格・世界観・道徳的正当性などについては敢えて判断をしない方がいい(実際には、なかなかそうはいかないが)。

 

もっとも、依頼者が悔しい思いをしているであろうことも良く理解できるので、最終的にどこまで依頼者の要望を聞き入れるかは、それぞれの弁護士の判断になるだろう。

 

ただ、一つだけ言えるのは、「依頼者の希望を何でも聞くことが、依頼者のためになるとは限らない」ということだ。

依頼者の行動が、依頼の本来の目的から外れ始めたら、心を鬼にしてそれをいさめる。それも、代理人弁護士としての大事な務めだと思う。