金融機関では、よく「稟議にかける」という言葉を使う。
「稟議」とは「りんぎ」と言い、その意味は、会社や官庁なので、会議を開催する手数を省くため、係の者が案を作成して関係者に回し、承認を求めることをいう。
「承認」という言葉があるように、「稟議」の対象になるのは、会社や官庁に何らかの決定権限がある場合である。会社や官庁に何も決定権限がない事柄については、「報告を受ける」とは言うが、「稟議にかける」とは言わない。
ただ、ときには、「報告案件」と「稟議案件」を混同しているように見えるケースもある。
あるとき、破産手続の債権者集会で、こんなことがあった。
破産者の資産状況、配当の見込みなどについて破産管財人が報告し、裁判官が管財人の報告を踏まえて配当のためのスケジュールを指定したところ、破産債権者であったある政府系金融機関の担当者から、
「持ち帰って稟議にかけますので、2,3日待ってください」
との発言があった。
このとき、管財人も裁判官も、そして破産申立代理人であった私も、一瞬何のことか分からずポカンとしたが、間もなく、担当者は、「債務者の資産状況についての報告内容、配当額や配当スケジュールについて金融機関として同意するのに稟議が必要だから、2,3日待ってくれ」と言っているのだということに気が付いた。
だが、破産手続きでは、配当額や配当スケジュールを決定するのに、債権者の同意は必要とされていない。況んや、債務者の資産状況に関する管財人の報告は、文字通り「報告」であるから、債権者が承認するか否かは関係ない。
裁判官と管財人がそのようなことを繰り返し金融機関担当者に説明したところ、担当者はようやく納得したらしく、「分かりました。本部に報告します。」との発言を残し、その債権者集会はお開きとなった。
おそらく担当者は、破産手続に債権者として参加した経験が少なく、不慣れだったのだろう。
とはいえ、「金融機関というものは、無意識のうちに『稟議』したがる、つまり、主導権を取りたがるものなのだな」と感じたことも事実である。