昨年3月11日の大震災で、福島県、宮城県、岩手県の太平洋沿岸地域は大津波に襲われ。多数の犠牲者が出ました。
が、そんな中、岩手県釜石市のように、ほぼ100%近い小中学生が生き残った地域もあります。
本書は、釜石市長年防災教育に携わってきた著者が、津波、洪水、土砂崩れ等の災害事例を引き合いに出しながら、災害時に生き残るための考え方、行動の仕方を説いた本です。
本書を読んで、気がついた点が2点あります。
第1点は、本書の主張と矛盾するようですが、「行政による防災活動には限界がある」という厳然たる事実です。著者は、このことを、
大いなる自然の猛威に対して、避難の支援などを「誰がやるべきか」という議論は不毛です。できないものはできないのです。「誰がやるべきか」ではなく、「誰ならできるのか」という観点で考えることが重要なのです(195頁)。
と説明しています。
「誰がやるべきか」という発想は、人間が、「大いなる自然の猛威」に対しても、完璧に対処できることを前提にしていますが、それは人間の奢りであるだけでなく、事実としても間違っているということです。
ただし、著者は、そのことを認めつつも、なお、人間の側で防災に尽くさなければならないという観点から、現在の防災政策の抱える問題点及び解決方法について、具体的な提言を行っています。
第2点は、第1点と関連しますが、「災害から命を守るのは、行政ではなく、自分自身である」という事実です。
が、大規模災害のときはこのことが忘れられがちです。このことを著者は、
「自分の命は自分で守る」ために、主体的に行動していますか? 例えば、「避難勧告が出たら逃げればいい」という考え方。すでに、もうここには主体性がありません。「あなたは行政に『逃げろ』と言われなければ逃げないのですか?」と言いたくなる(50頁)。
と表現しています。
そして、災害への対処について、主体性を取り戻すために必要・有効な考え方、行動の仕方について、著者のこれまでの災害教育に即して、詳しく説明されています。
本書は、防災に関する本ですが、本書を読んで私が思ったのは、「災害のときに限らず、結局、自分の命は、自分で守るようにしなければいけない」という、当たり前のことでした。