〈前回の話は、こちら)
ここまで、スーパーA社が辿った道筋を、おさらいしておこう。
- 金融機関を対象とする説明会を開催したあと、金融機関から、土地を仮差し押さえられた(なお、この土地は、スーパー店舗とは別の土地である)。この土地は、取引先に対する滞納買掛金の支払いに充てるため、売却しようとしていたものだった。
- 金融機関の同意を得て、土地は売却できたが、仮差押えを抹消する代償として、売却代金から滞納買掛金の支払いをマイナスした残りは、各金融機関へ配当せざるを得なかった。
- 土地の売却後、待っていたかのように、複数の金融機関から、貸付金の残高について、訴訟を起こされた。
- 訴訟が終わった後、スーパーのお店に対して、競売が申し立てられた。
残念ながら、「再建」というには、ほど遠い道筋である。
だが、先行きがどうであっても、当事者は必死である。このスーパーも、ただ拱手傍観していたわけではない。
A社は、債務整理を開始した後、総菜、生鮮などといった各部門毎の売上・粗利益を定期的に情報交換するようになった。
すると不思議なもので、各部門の責任者が、商品の仕入に際して量やタイミングを工夫したり、商品の陳列法法、ディスプレイに気を配るなど、改善が見られるようになった。
社長は、毎朝5時過ぎには店に出て、店内を掃除していた。
ただ、A社の場合、特に目新しい商品を置いていたわけではないし、周りに競合スーパーが多かったこともあり、どうしても値段競争を強いられてしまう。
A社は、粗利益率を高め、営業赤字を縮小するなど健闘していたが、なかなか黒字化できず、売上も、じりじりと下がっていった。
おまけに、お店は競売を申し立てられているのだから、競落されてしまったら、お店の存続は諦めざるを得ない。
もっとも、A社にも希望がないわけではなかった。理由は、以下の通りである。
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競売を申し立てられたとはいえ、お店の土地建物全てが競売を申し立てられたわけではない。
A社には、お店のほかにも、今は使われていない倉庫などの建物があったが、これらの建物の大半は未登記であり、理由は不明だが、なぜか競売申立てがされていなかった。
ということは、競落人が、それらの建物を撤去するには、改めてA社の承諾を得るか、建物撤去を求める訴訟を提起するかしなければならず、このことは、競落をためらう要因となる。 -
A社の近くは競合スーパーが多く、同業者は手を出しにくい。
実際、A社のスーパー事業を買い取ってもらうべく、スポンサーも探してみたのだが、断られてしまった。 -
A社のスーパーがある地域は人口増加がほとんど止まっているので、スーパー跡地をマンションへ転用するのは難しいと思われた。
以上の理由からして、お店が入札されても、そう簡単には落札されまい、落札されなかったら競売手続期間が延びるから、その間に何か手を打てるだろうと考えていた。
と、そんなとき、社長から、またしても「先生、困ったことが起きました」とのお知らせが。
「今度は何ですか?」
「元従業員たちから、残業代を支払えと、労働審判を起こされました。」
「ほほう。請求額はどの程度?」
「合計で1300万円ぐらいです」
「そんなお金、ある?」
「ないですよ。私だってずっと役員報酬ゼロなんだし」
「じゃあ、何とかするしかないねえ。答弁書(訴えられた側の反論書)の提出期限は、いつですか?」
「えーと、裁判所からの連絡文によると、10日後ですね。」
・・・え? たったそれだけしかないの?
(続く)