あるスーパーの企業体験始末記(1)

「企業再建」と言っても、そんなに格好良いものではない。

結果的には、スーパーは破産してしまったのだから。

ただ、会社の建て直しだけが「再建」というわけでもない。

というわけで、私が担当弁護士として関わった、ある食品スーパーの再建の顛末について、守秘義務に触れないようにしながら、少しずつ書いてきたいと思う。

 

このスーパー、名前を仮に、「A社」としておこう。

とある地方の食品スーパーであり、法律事務所に相談に見えたときには、複数の店舗を経営していた。

 

聞くところによると、競合店が何店も出店してきたからか、売上が、10年前の数分の1にまで落ちてしまったという。

そして、金融機関へ借入金を返せなくなったばかりか、仕入れ先に対する代金も数千万円というレベルで滞納しているという。

 

今だったら、中小企業金融円滑化法があるから、借入金の返済を猶予してもらうことは易しくなっているが、当時は、そのようなありがたい法律はなかった。

借入金を返せなくなると言うことは、すなわち債務不履行であり、いつ、金融機関から裁判を提起されたり、競売を申し立てられたりしても文句は言えない・・・というのが、当時の常識だった(多分、厳密に言えば、今でもそうであろう)。

 

私が当時勤務していた法律事務所は、そのような状態にある会社の再建を後押しすることを、事務所のミッションとしていた。

だから、当然のように、A社の再建を引き受けることになり、私が担当弁護士に任命された。

 

「近日中に各金融機関を集めて、説明会を開こう。それまでに、『経営改善計画書』を用意しておいてくれ」

 

「経営改善計画書、ですか?」

 

「あ、そうか。後藤君は初めてだったな。過去に取り扱った会社の経営改善計画書が本棚にしまってあるから、それを自由に参照してくれ。」

 

このときの自分は、

「下書きはA社の方にお願いするから、自分はそれを事後的にチェックすればいいかな。」

と考えていた。

 

ところが、このような自分の考えが甘かったと悟るまでに、時間はかからなかった。

 

(つづく)