古代中国、春秋時代において、「春秋五覇」の1人として晋を大国に押し上げた文公こと重耳。
作者の宮城谷昌光さんは、その重耳を主人公とした「重耳」という長編を書いているが、本書では、重耳に仕え、命を賭して重耳を守りつつ、重耳が君主になるや忽然と姿を消してしまった「介子推」が主人公になっている。
山霊から使わされた人食い虎との闘い、介子推と恋人との交流、重耳の命を狙う暗殺者との複雑な関係など本書は見所が多い。何より、名利を求めず志高く生きる介子推の清廉な立ち居振る舞いを見ると、思わず襟を正してしまう。
もう一つ見逃せないのは、文章の美しさ。ときどき、詩を朗読しているような気持ちに襲われることがあり、宮城谷さんは元々詩人志望だったのではと勝手に想像していたが、随筆集「春秋の名君」でドイツの詩集が好きだったことが分かり、納得した次第。
本書だけでも充分に楽しめるが、できれば、「重耳」との併読を薦めたい。