本の紹介「人が人を裁くということ」

表題からすると法学系の本に見えるが、内容的には、社会心理学の立場から見た裁判論に近い。

 

裁判員制度(第1部)、えん罪が発生する構造的理由(第2部)についての論述も読み応えがあるが、白眉は、裁きが人間の「原罪」であると喝破した第3部である。

 

特に、「生じた罪」に応じて「罰」が科されるのではなく、先に『罰』があり、『罰』を受けるにふさわしいスケープゴート(犯罪者)、罪(犯罪)が後付けで作られるのであるという論述は極めて挑発的である。法学者、法曹実務家がロースクール等で教え学んできた「常識」には真っ向から反するが、某芸能人が覚醒剤使用容疑で逮捕された際、私の知人が某芸能人を死刑に処するよう主張していたいたのを見ると、人間は、共同体の秩序を維持するため、「裁かないではいられない」動物なのだという著者の主張にもうなずける。

 

ともあれ、裁判員制度を含めた刑事裁判の技術的議論にとどまらず、「裁く」という行為そのものの本質から考察するにはおすすめの本である。